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Uちゃんは4歳の女の子。半年前に両耳が痛くなって急性中耳炎といわれた。耳の痛みはすぐにとれたが、その2週間後、聞こえにくく、音への反応が悪いので、耳鼻科に駆け込んだ。滲出性中耳炎という診断で、2ヶ月間、週に3・4回の通院を続け、ようやく治ったとの言葉を医師からもらった。母親は滲出性中耳炎はコワいと周りから聞いていたので、とにかくその2ヶ月間は必死で通院した。しかし、1ヶ月もたたないうちにまたUちゃんは呼びかけにお返事しなくなった。以来3ヶ月、今日も耳鼻科の通院が続く。
H医師 「う〜ん、やっぱり鼓膜は倒れているなぁ。聞こえ具合はどう、お母さん?」
Uちゃんの母親 「最近はかなり悪いような気がします。」
H医師 「そうでしょう。これだけ治療しても治らないからねぇ。やっぱり鼓膜にチューブを入れる手術をしないとダメだね。まだ小さいから入院して、全身麻酔でしないとね。近くの病院に紹介状を書くから。」
Uちゃんの母親 「あの、先生。全身麻酔って、コワくないですか。あの、すみませんが、もうしばらく先生に治療していただきたいんですが。」
H医師 「じゃあ、もうしばらくこちらで診ますが、週2・3回じゃあ絶対治らないからね。とにかく毎日、来なさい。」
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とにかくこんな小さい子に手術なんてとんでもない。絶対嫌だ。がんばって通院するしかない。 |
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以来1ヶ月。やっぱりUちゃんの聴力は悪いまま。最近では2日に1度くらいは手術の話をされる。
H医師 「こんなに聴力が悪いと、言語発達も遅れるかもしれんよ。手術後はまたこっちに来たらいいんだから、紹介状を持っていきなさい。子供の手術、親がいやがる気持ちはわかるけどね。案ずるより生むが易しという言葉もあるよ。」
母親は、言語発達という言葉にドキッとする。しかし、それでも必死で抵抗する。
Uちゃんの母親 「わかりました。そしたら先生、主人と相談して、今度お返事させていただきます。」
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ああ、ついにここまで来てしまったか。この半年、必死で通院した努力は何だったんだろう。とにかくなおしてやりたい、手術なんてかわいそうで絶対受けさせたくない、という気持ちでがんばってきたのに。しかし、将来、聴力が悪化するのも心配だし、言語発達が遅れたりしたらそれこそ一大事だ。そうだ、ほかの耳鼻科に行って相談してみよう。 |
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周囲の友人へのメールで、調査は完了。J耳鼻科を受診することに決定。
Uちゃんの母親 「先生、他のところで何ヶ月も毎日ほど通院していたのですが、よくなりません。そこでは手術をするようにいわれたんです。」
やさしそうな先生、笑顔でゆっくりと説明してくれた。
J医師 「いや、まあ、手術は今の段階では必要ないですよ。長くはかかりますので、お母さんにはがんばってもらわないといけないですけどね。根気よく通院してもらえば、週2・3回の通院治療で十分治ると思います。」
母親は胸を撫で下ろす思いで、不安がなくなっていくことを実感した。通院で治るなら、危険性のある手術はイヤだ。がんばって、通院しよう。
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手術を避けたいという思いは誰しも同じでしょう。ましてやそれが幼い我が子となれば、なおさらです。しかし、その親心が、お子様の病状から見ると、親のエゴでしかない場合もあり得るということをぜひこの機会におわかりいただきたいと思います。「手術がイヤ」というのは単なる感情です。
感情だけにとらわれると冷静な判断はできません。この場合、数ヶ月以上、難聴があり、手術を強くお勧めする状態になっている公算が高いようです。とにかく滲出性中耳炎
が長期に及ぶと、難聴ばかりでなく、想像以上のストレスがお子様にかかっているのです。その、親が思い及ばない不便をお子様が抱えていることを理解しようとせず、感情だけでお子様が快適になる機会を奪っていることはやはり「親のエゴ」といわざるを得ないのではないでしょうか。
お子様が「手術を受ける」ことは確かにかわいそうなことかもしれませんが、滲出性中耳炎をそのままにしておくほうがもっとかわいそうなのかもしれない、ということも念頭においていただきたいのです。まあ、滲出性中耳炎のチューブ留置術の場合は、手術を決める基準にどうしても曖昧さが残っているので、医師個人の見解の相違ができてしまいます。ですから、手術をしないという選択肢ももちろん、ありえない選択ではありません。
しかし、それにしても、J医師の「手術は今の段階では必要ない」という説明は不適切です。この表現だと自分が客観的に正しいと主張していることになりますが、元々母親は「手術をするようにいわれた」といって、手術を避けたいとの希望を吐露しているわけですから、それを利用して、母親の気をひいていると受け取られても仕方がないでしょう。「私は今の時点では手術をお勧めしません。」という、自分の意見として述べる表現が適切なところでしょう。
加えて、母親は毎日の通院で疲れた様子を訴え、それに対して、自分のところでは週2・3回の通院でいいといっています。これは単に治療方針の違いかもしれませんが、よい方に解釈すると、母親の毎日の通院を少し楽にしてあげたいという親切心という見方ができる一方、悪く解釈すると、他の耳鼻科が毎日の通院なので、それより少し少なめの通院を指示することによって自院への通院へと母親の気を惹こうとしているのかもしれません。この物語には後日談があります。続けてみましょう。
その後・・・
J耳鼻科に通院して、すでに2ヶ月。やはり、Uちゃんの耳の状態は芳しくない。ついにUちゃんの父親が業を煮やして、通院の付き添いを申し出てきた。母親は今までほとんど報告していなかったが、H耳鼻科で手術を勧められたため、J耳鼻科に替えたことなどを話した。
父親 「じゃあ、やっぱり手術を受けさせた方がいいってことだろ。」
母親 「でも、長くかかる場合は数年くらいかかるってことだから。無理に手術をしなくてもいいってことよ。」
父親 「このまま放っておいて、難聴になったらどうするんだ。今だって結構聞こえにくいぜ。それに最近、ちょっと会話が少なく、元気がないような気がする。」
こんなやり取りから1ヶ月後、H医師の紹介からK病院でついに鼓膜チューブ留置術を受けた。
K病院の若手耳鼻科医師L先生は、Uちゃんが手術室に入って、まだ30分を少し過ぎたところなのに、もう家族待合室に現れた。
L医師 「無事終わりましたよ。Uちゃん、ちょっと泣いてますけど、元気です。もうすぐ、出てきますからね。」
両親はあまりの早さに驚き、そして、我が子が元気に泣いている姿を見て、大きな安堵感、そして涙が出るほどのいとおしさを感じる。
そして、3週間。両親はUちゃんの変わりように驚かざるを得ない。もちろん、とてもよく聞こえるようになった。しかし、そればかりではなかった。明るく、活発になった。よくしゃべるようになった。よく笑い、表情が生き生きとしてきた。
母親は思う。手術を避けることだけを考えていた私は間違っていたのか。「案ずるより生むが易し」といってくれたH医師はこのことを言ってくれていたのか。そして、こんなに劇的によくなる手術を勧めないJ医師の治療方針とはいったい何なのか。
お子様の手術を勧めるというのは、私に限らず、医師はみんな、とてもストレスのかかる仕事です。ご両親の心配、不安を全て受け止めなければならないからです。
特に滲出性中耳炎の鼓膜チューブ留置術のように、医師によってその必要性に見解の相違がある場合にはなおさらです。「あっさりと手術を受けたら、今の難聴はすぐによくなるのに」と思う場合でも、そのような言い回しはむしろ不適切でしょう。
また、「私の子供なら受けさせるけど」という言い方をする医師も見受けられますが、私は好きな表現ではありません。しかし、私を含めて、医師の本音はそんなところです。ですから、「絶対に手術が必要というわけではない」という言葉をよりどころとして、お子さまの手術を回避されるご両親には残念でしかたがありません。
やはり本音は「あ〜あ」ですね。このストーリーでは、医師がお子様の手術を安易に勧めることがないということ、手術を回避することばかり考えることが適切なことなのかどうか、とうことを感じていただきたいと思います。
お母さんのための『中耳炎物語』
ストーリー5
「手術じゃない方がずっと安心!?」
終 |