耳鼻咽喉科サージクリニック 老木医院
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お母さんのための『中耳炎物語』
「手術ってそんなに危険がいっぱいなの?」

 J君、4歳。4ヶ月間E耳鼻科に通院してずっと通気と鼻の処置を受けているが、滲出性中耳炎の状態は変わらないまま。聞こえにくさもほとんど変化がない。この1ヶ月ほどは、J君の母親はインターネットで情報収集に首ったけ。徐々に知識を増やしていった。そして、ある日、E耳鼻科で・・・。

 J君の母親 「先生、やっぱり聞こえにくいです。なんか、このまま難聴になってしまったらと思うと心配で。鼓膜にチューブを入れるという手術があると何かに書いてあったのですが、そんな手術を受けなくていいんでしょうか。」

 E医師 「いやぁ、まあ、そういう方法もあるんだけどねぇ。僕はあんまり好きじゃないので、お勧めはしてないね。お母さん、こんな小さい子に全身麻酔の手術を受けさせたいの?全身麻酔だから入院になると思うよ。それに、チューブを入れると、その穴からバイ菌が入って急性中耳炎を繰り返すことが多いんだよ。チューブが抜けたあと、その穴が残って慢性中耳炎になることもあるし、穴が残らない場合でもチューブを入れたところが固くなってしまうことが多いからね。それでも、チューブを入れて、完全に治るんならいいんだけどね。結構再発することが多いの。僕はやめておいたほうがいいと思うよ。それでもどうしても、というんなら、紹介状は書くけどね。どうします?」

 

 

私の意見この話はこれで終わりです。ずいぶん短いのですが、この医師の発言が全てです。私はこの医師は誠実さに欠ける、ずるい医師だと思います。

この医師の発言内容は全て本当です。嘘は全くついていません。しかし、嘘でなければ、こんな言い方をしても許されるのか。これが誠実な対応といえるのか。

とにかく、いたずらに危険性を強調しすぎています。こんなふうにいわれたら、誰も手術を受けようとは思わないでしょう。全身麻酔で重大な合併症がおこるのは数十万分の1ですし、鼓膜の穴が残ることは1%以下です。急性中耳炎を起こすことは10%程度ありますが、多くの場合は薬ですぐに治るため、手術を回避する理由になるほどのものではありません。

この医師のように、治療法の欠点のみを強調すれば、患者さんは当然その治療法を選ばなくなります。

つまり、治療法の1つを選択するチャンスを奪っていることになるのではないでしょうか。この医師は自院に患者さんを通院させ続けたいために、このような説明になっていると思われてもしかたがないくらい、かたよった説明になっていると私は感じます。

話は少し飛びますが、慢性中耳炎でもこのような話は枚挙にいとまがありません。慢性中耳炎で鼓膜に大きな穴がある患者さんが手術を勧められることなく、耳漏が出るたびに通院治療を受けているだけなのです。このような場合でもやはり、手術で聞こえなくなってしまうことがあるとか、顔が曲がるなどの滅多におこらないような危険性を強調して説明される場合があります。

そして、このような説明を受けた患者さんが何かの機会に手術を受けて、すっかりよくなってしまった場合には、「治療方針の違い」とか「見解の相違」ということを理由にされるに違いありません。

昨今、医療事故が絶えず、毎日ほど、報道されています。そして、それらのほとんどの医療事故は医師が何らかの検査や治療などの行為を行って生じた不都合なことを問題にしています。しかし、手術という治療法があるということを説明しないということは現状では問題視されることはあまりありません。

つまり、医師が手を下さないことによって患者さんに不都合なことが起きても、医師が手を下して生じた問題に比べて、ずっとその責任が問われにくいのです。行為を行わないほうが、行為を行うより責任を問われないのであれば、行為を行わないという安易なほうに流れるのは当然のことです。よく指摘される萎縮医療がここに成立します。手術を行うという勇気、私はもっと評価いただきたいと思っています。

お母さんのための『中耳炎物語』
ストーリー8
「手術ってそんなに危険がいっぱいなの?」
 終

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